「高額医療費貸付制度」とは?
高額医療費貸付制度とは、
「治療で必要になる自己負担金の一部を、無利子で借りることのできる制度」です。
お金を借りる所(借入先)は、ご加入の公的医療保険です。
「貸付」と付いていますが、借金やローンのように後から返済するわけではありません。
高額療養費制度で3〜4ヶ月後に払い戻しされるお金を、今から前借りする制度です。
実際には、高額な医療費を減額する仕組みの1つです。
ご加入の公的医療保険によって、
実施している場合と、実施いていない場合があります。
「具体例」を教えてください。
がんの入院治療で、医療費が100万円かかるとします。
このとき、自己負担金は3割負担で30万円です。
ここで高額医療費貸付制度を利用すると、
自己負担金が、30万円から約13万円へ減額されます。
つまり、実際に病院へ支払う自己負担金が約13万円で済みます。
(実際の金額は、収入やご加入の公的医療保険によって異なります。)
「利用できる人」とは?
高額医療費貸付制度を行なっている公的医療保険に加入している人です。
例えば、全国健康保険協会(協会けんぽ)の加入者は利用できます。
国民健康保険(国保)の場合、市町村によって利用できるかどうかが異なります。
2021年12月時点で、東京都世田谷区では利用できますが、大阪府大阪市では利用できません。
ご加入の公的医療保険で利用できるかどうかは、保険証の発行元(保険者)へご確認ください。
また、あくまでも医療費が高額になった場合の制度なので、
数千円〜数万円ほどの自己負担金では利用できません。
また、保険料の滞納がある方は、制度が利用できないことがあります。
サラリーマン、公務員の方は給料からの天引きのためこの心配はないですが、
自分で支払う国民健康保険の方はご注意ください。
高額医療費貸付制度の「対象」とは?
保険が効く治療や薬であれば、全て対象です。
「保険が効く(保険適用)」とは、3割負担で受けられる治療のことです。
(75歳以上の方は原則1割負担です。)
3割負担でも医療費の自己負担金が高額になった場合、
「高額療養費制度」を利用し、一定額の払い戻しを受けることができます。
しかし、この払い戻しには少なくとも3ヶ月はかかります。
その間の病院への支払いに困る場合に、高額医療費貸付制度を利用し、
負担を軽減することができます。
つまり、高額医療費貸付制度の対象は、
高額療養費制度を利用するようなお金のかかる治療とも言えます。
高額医療費貸付制度の「対象外」とは?
「保険が効かない」治療や薬などは対象外となります。
つまり、3割負担にならない医療費は対象外です。
以下の費用は対象とならず、全額自己負担となるのでご注意ください。
対象外まとめ
- 先進医療(例:がんの陽子線治療、重粒子線治療)
- 自由診療(例:美容整形、人間ドック)
- 差額ベッド代(個室、少人数部屋代)
- 入院時食事療養費(病院食のこと)
- 交通費、駐車場代
また、支払いに困る金額であっても、
高額療養費制度の適用となる金額に達していない場合も、
高額医療費貸付制度の対象とはなりません。
高額医療費貸付制度は、高額療養費制度の申請が前提となるためです。
事前に「限度額適用認定証」を入手していて、
自己負担金を減額している場合も利用できません。
高額医療費貸付制度や限度額適用認定証を利用しても、
一定額の自己負担金は発生します。
(がん治療で医療費100万円なら、9〜15万円ほど)
この自己負担金の支払いが厳しい場合は、
- 「生活福祉資金貸付制度」を利用する
- 病院に「分割払い」ができるか相談する
- 銀行から医療ローンで借りる(最終手段で非推奨です。)
以上のような対応が考えられます。
いくら医療費が安くなりますか?
(例)全国健康保険協会(協会けんぽ)、年収400万円
がん治療で2週間入院して、医療費が100万円かかったとします。
(この100万円は、3割負担にする前、つまり10割計算の金額です。)
自己負担金は、3割負担計算で30万円です。
ここで高額医療費貸付制度を利用すると、
自己負担金は13万円になります。つまり、17万円が減額されます。
この金額について、順を追って解説します。
まず、医療費100万円は、3割負担で30万円となります。
30万円は高額なので、高額療養費制度が適用されます。
高額療養費制度を使用すると、自己負担金は87,430円となります。
この差額212,570円は、3〜4ヶ月後に払い戻しされます。
(30万円-87,430円=212,570円)
ただし、病院へは一旦30万円を支払う必要があります。
この時、3〜4ヶ月後に払い戻しされる予定の212,570円の8割、
つまり17万円が貸付額となります。
(正確には170,056円ですが、端数処理されます。)
この17万円を前借りする形で、加入している公的医療保険から病院へ支払われます。
そのため、患者さんご本人は、30万円-17万円=13万円を病院へ支払えば良いわけです。
またこの時、
高額療養費制度の本来の払い戻し額212,570円と、前借りした17万円の差額、42,570円が残ります。
この42,570円が、3〜4ヶ月後に患者さんご本人に払い戻しされます。
また、高額医療費貸付制度で前借りした17万円には利子はかかりません。
最終的な自己負担金は、87,430円となります。
ただし、高額医療費貸付制度は、高額療養費制度の申請が前提となります。
この高額療養費制度では、皆さんの収入によって自己負担金の上限が設定されます。
よって、同じ医療費100万円でも、人によって借りられる金額には違いがあります。
実際の金額は、
病院から提示された医療費を、ご加入の公的医療保険にお伝えしご確認ください。
この例のように、全国健康保険協会(協会けんぽ)では8割の貸付ですが、
市町村の国民健康保険では9割で貸付を行う自治体もあります。
いつ適用されて医療費が安くなりますか?
申請から2〜3週間後に、指定した銀行口座に振り込まれます。
患者さんご本人(ご家族)の銀行口座か、病院の銀行口座のどちらかになります。
ご加入の公的医療保険によって対応が異なります。
すでに支払った医療費に使えますか?
原則、すでに支払った医療費には使えません。
高額医療費貸付制度は、「今まさに医療費が支払えない人」のための仕組みです。
また、病院での支払い前に、
限度額適用認定証を入手して支払額を軽減した方も対象外です。
限度額適用認定証、高額医療費貸付制度どちらも使わなかった方は、
高額療養費制度の申請を行うことで、すでに支払った医療費の一部が払い戻しされることがあります。
高額療養費制度の申請期限は2年です。
高額な医療費がかかったものの、特に何も手続きをしなかった方は、
一度ご加入の公的医療保険にお問い合わせすることをお勧めします。
さらに、毎年の確定申告時に医療費控除を行うことで、
所得税や住民税が一部還付(払い戻し)されます。
申請に費用はかかりますか?
申請そのものに費用はかかりません。
必要種類を郵送する際には、切手代等がかかります。
また、高額医療費貸付制度の申請が通った場合、
銀行への振り込み手数料は、患者さん負担となる場合があります。
「相談窓口」はどこですか?
ご加入の公的医療保険の窓口です。
例
- 大企業「健保組合」・・・健康保険の担当部署
- 中小企業「協会けんぽ」・・・協会けんぽの管轄支部
- 自営業「国民健康保険」・・・市役所、区役所の健康保険課
わからない方は、健康保険証の電話番号先へお問い合わせください。
なお、ご加入の公的医療保険によっては、制度を実施していないこともあります。
国民健康保険の方は、実施している市町村と、実施していない市町村があります。
「必要書類」は何ですか?
全国健康保険協会(協会けんぽ)の場合、下記の通りです。(2021年12月時点)
- 医療機関(病院等)の発行した、保険点数(保険診療対象総点数)のわかる医療費請求書
- 被保険者証又は受給資格者票等(原本提示・郵送の場合は写しで結構です。)
- 高額医療費貸付金借用書
- 高額療養費支給申請書
詳しくは、ご加入の公的医療保険の窓口へご相談ください。
「診断書」は必要ですか?
診断書は必要ありません。
その他の必要書類については、ご加入の公的医療保険の窓口へご相談ください。
ただし、診断書は以下の場合に必要になります。
- 「公費負担医療制度」の申請
- 「障害者手帳」の申請
- 「障害年金」の申請
- 「民間医療保険」の保険金受け取り申請
- 「都道府県民共済」の保険金受け取り申請
それぞれ専用の診断書が用意されていることが多いです。
診断書のために何度も病院へ行く手間を避けるため、
できる限り退院や治療完了前に、確認することをお勧めします。
「所得制限」はありますか?
所得制限はありません。
ただし、高額医療費貸付制度は、高額療養費制度の申請が前提となります。
この前提となる高額療養費制度では、
皆さんの収入によって自己負担金の上限が設定されます。
よって、同じ医療費100万円でも、人によって借りられる金額には違いがあります。
「年齢制限」はありますか?
年齢制限はありません。
ただし、高額医療費貸付制度は、高額療養費制度の申請が前提となります。
この高額療養費制度では、69歳まで、70歳〜74歳、75歳以上で計算方法が違います。
よって、同じ医療費100万円でも、人によって借りられる金額には違いがあります。
「回数制限」はありますか?
基本的に、月に1回です。
今後も高い医療費がかかりそうな時には「限度額適用認定証」を入手しましょう。
高額医療費貸付制度、高額療養費制度、限度額適用認定証のどれを利用しても、
最終的な自己負担額は同じです。
限度額適用認定証は、3つの中でも最も手続が簡単で、
一時的な出費を最小額で抑えることができるためお勧めです。
さらに限度額適用認定証は、一回発行すれば1年間有効です。
家族の代理で手続きできますか?
委任状が求められることもありますが、基本的に大丈夫です。
ご加入の公的医療保険の窓口へご相談ください。
高額医療費貸付制度の「メリット」は何ですか?
医療費の自己負担金を軽減できることです。
最終的な自己負担金は、
限度額適用認定証や高額療養費制度を使った場合と同額です。
高額医療費貸付制度の「デメリット」は何ですか?
特にデメリットはありません。
高額医療費貸付制度は、法律で無利子が定められているため安心です。
金額の計算式が複雑でわかりにくいですが、
限度額適用認定証や高額療養費制度を使った場合と、
最終的な自己負担金は同額です。
高額医療費貸付制度の「注意点」は何ですか?
ご加入の公的医療保険によっては、高額医療費貸付制度を実施していないことがあります。
実施していない場合は、
一旦、自己負担金の3割分を支払い、「高額療養費制度」を申請して払い戻しを行なってください。
3〜4ヶ月後に、払い過ぎた医療費が払い戻しされます。
最終的な負担額は、どちらの制度を利用しても同額です。
また、実施している公的医療保険であっても、
健康保険料を滞納している場合は利用できないことがあります。
高い医療費がかかりそうな時には「限度額適用認定証」を入手しましょう。
高額医療費貸付制度、高額療養費制度、限度額適用認定証のどれを利用しても、
最終的な自己負担額は同じです。
限度額適用認定証は、3つの中でも最も手続が簡単で、
一時的な出費を最小額で抑えることができるためお勧めです。
これらの制度を使用しても、自己負担金の支払いが厳しい場合は、
- 「生活福祉資金貸付制度」を利用する
- 病院に「分割払い」ができるか相談する
- 銀行から医療ローンで借りる(最終手段で非推奨です。)
以上のような対応が考えられます。
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